新しい研究によると、根切り虫という害虫への対処を目的とした遺伝子組換えBtトウモロコシの広範な使用は、過剰栽培と害虫耐性をもたらし、この作物の長期的な有効性を危うくしているという。米国の「コーンベルト(トウモロコシ栽培地帯)」10州のデータから得られたこの研究結果は、こうした過剰使用が米国の農民に16億ドルの経済的損失をもたらしたと推定しており、遺伝子組換え作物の利益を維持するためには、種子の多様性、透明性、農民の意思決定を改善する必要があると強調している。「現在および将来の関連する技術革新が、Btトウモロコシの雑種と同じように管理されるならば、遺伝子組換え技術が急速に陳腐化するサイクルに陥る危険性がある……」と著者らは述べている。遺伝子組換え作物、特にバチルス・チューリンゲンシス(Bacillus thuringiensis、Bt)由来の殺虫タンパク質を組み込んだ作物は、環境への影響を最小限に抑えつつ害虫の被害を減少させることにより、世界の食糧生産を大幅に増加させてきた。しかし、Bt作物の使用が増えるにつれて、害虫は必然的に耐性を獲得し、この技術の有効性は徐々に低下している。トウモロコシ根切り虫を標的とするBtトウモロコシの雑種は広く使用されているが、2009年に耐性が出現し始め、Btトウモロコシの長期的な存続可能性に対する懸念が高まっている。この問題は、自己利益に基づく個人の行動が共有資源の乱獲につながる「コモンズの悲劇」に似ている。
Ziwei Yeらは、米国のコーンベルト10州における12年間の実地試験データ、農家の種子使用、および利己的な意思決定と広範なコミュニティへの影響を考慮した最適な決定とを区別する学際的アプローチを活用して、根切り虫耐性Btトウモロコシの最適な作付けレベルから逸脱することによる経済的影響を評価した。Yeらは、Btトウモロコシによる害虫抑制の結果として害虫圧が低下する一方で、この作物の作付けが増加したことにより、根切り虫に対する有効性が損なわれていることを見出した。さらに、2014年から2016年までの費用便益分析では、Btトウモロコシがしばしば過剰に栽培されていたことが示されており、特に害虫圧が低いコーンベルト東部の州でこの傾向が顕著であった。こうした過剰使用によって、害虫抑制の利益は最小限に抑えられ、遺伝子組換え種子のコストは上昇し、害虫感受性プールは大幅に減少し、その結果として、これらの地域の栽培者は生涯で推定16億ドルの経済的損失を被った。著者らによると、今回の研究結果によって、Btの過剰使用を引き起こす広範な組織的問題が浮き彫りになったという。自己利益のための作付けと最適なBt作付けレベルとの相違は、おもにBtトウモロコシの全体的なコストと利益に対する誤解が原因である。これは、バンドルされた特性パッケージと、利益を重視する種子会社からの市場圧力によってさらに複雑になる。さらに、農家は根切り虫の圧力やBt雑種使用の長期的影響について、十分な情報を得ていないことが多い。関連するPolicy ForumではZachary BrownとDominic Reisigが、「規制当局が直面し、Yeらが提起した課題に対処するには、短期的な農家へのインセンティブと、長期的な農業および環境の持続可能性とのバランスをとり、Bt作物を害虫管理の実行可能な手段として存続させる必要がある」と述べている。